元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2019-12-13

第7回 漫画家になるために何を読めばいいのか問題



「プロになるためには、映画をたくさん観なきゃダメですか」「どんな本を読めばいいでしょうか」と、よく新人漫画家さんに聞かれます。





これ、ぶっちゃけ正解は無いです。

プロで活躍されてる漫画家さんでも、本はいっさい読まない、映画は見ない、ラジオしか聞かない…と、マジでバラバラです。なので、「なんでもたくさん、考えながら読んで&見ておけば損をすることはないですよ。量は裏切らないので」と答えます。人よりも強烈に「好き!」と言いきれるジャンルがあるならば、まずはそれをとことん掘り下げてほしいところ。


…そのうえで。まだ執筆スタイルの出来上がっていない、試行錯誤中の新人漫画家さんには次の4つをオススメしています。




①漫画家を目指すなら、まずはいろんな漫画を読んだほうがいい

手塚治虫先生の有名なアドバイスに、「漫画から漫画の勉強するのはやめなさい。一流の映画を見ろ、一流の音楽を聞け、一流の芝居を見ろ、一流の本を読め。そして、それから自分の世界を作れ」があります。ただこの言葉…漫画は読まなくていい、という意味ではないです。

漫画を描くなら、映画やアニメ以上に漫画をたくさん読んで、漫画家としての基礎体力(読みやすい漫画と読みにくい漫画の差を感じとれるようになる、自分が興奮する瞬間、冷める瞬間を把握するなど)をつけておくに越したことはないでしょう。

プロの漫画家でも、漫画をほとんど読まない方はいますが、それは執筆スタイルが出来上がって、かつ成功したあとだから成立しているのだと思います。




②どんなジャンルでもいいから、くり返し見ても飽きない作品を持とう

以前、「HUNTER×HUNTER」の冨樫義博先生と「NARUTO-ナルト-」「サムライ8」の岸本斉史先生の対談に立ち会った時のこと。『AKIRA』好きを公言する岸本先生、デビュー前の学生時代の話を聞いていたら「まず朝起きて『AKIRA』見てから学校へ行って…」と、なんてことない感じで話されて、「そんな朝飯代わりに『AKIRA』を!?」と衝撃を受けました。自分も気に入った作品を見返すことはあっても、せいぜい数回。好きなモノへの「執着」が人一倍強いと、作り手として大きな武器になるんだなと思い知らされました。

また、別の作家さんは好きな作品を再読することを「最初から最後まで丸暗記してないかぎりは、見返すたびに発見があるはず」と言っていて、なるほど素晴らしい表現だと思いました。

何度見ても飽きない、自分が過剰に「執着」できる作品があるなら、引き続き大事にしてください。きっと大きな支えになってくれます。

※ちなみにこの対談(ジャンプGIGA 2016 vol.2収録)、お二人がガチンコで志望者の質問に答えてて、むちゃくちゃ濃密なので一読をおすすめします。




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③好きなクリエイターが影響を受けた「源流」をたどる

好きな作品の作り手が何の影響を受けた結果、自分の好きな作品が生まれたのか。「源流」をたどると発見が多く、なにより普段自分から手に取らないような作品と出会えるので、これまたオススメです。漫画家さんへのインタビューを読んだり、最近はネットでちょっと調べれば、何に影響を受けたか・どんな作品が好きかけっこうわかります。

漫画じゃないですけど、プロの小説家が今までどんな本を読んできたかインタビューする「作家の読書道」(WEB本の雑誌連載中)が、まさに「源流」の宝庫なので愛読してます。これの漫画家さんバージョン作りたいくらい…




④1巻だけ、何作もひたすら読む

全巻ではなく、まずは「1巻」だけ読む。それもできるだけたくさん。ジャンルを問わず手あたり次第。1巻目は、漫画家さんと編集者が読者を引き込むべく、主人公の見せ方や展開をこれでもかと練っているので、色んな「パターン」を蓄積するのに役に立ちます。また、2巻を読みたい作品とそうでない作品が出てくるので、何が違うかを考えると視野が広がります。
(少年ジャンプ編集部には、ジャンプだけでなく、色んなジャンルの古今東西の1巻を集めた研究用の本棚があります)


以上、「これを読んだら面白いもの描けます」といった教科書は無い世界ですが、逆にいえば「面白い作品もつまらない作品もすべてが教科書」ともいえます。






次回予告

次回は、これまたよく聞かれる「構成」について書いてみます。