ジャンプ・ノベル × 少年ジャンプ+ スペシャルコラボ ジャンプ・ノベル × 少年ジャンプ+ スペシャルコラボ
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2021/7/23 航時局ビル 御戸ミツキ私室

 時震の影響でおかしくなった歴史を修正する。
 それが僕たち航時局歴史管理課、通称THRのお仕事。

 ――なのだが、困ったことに今日は風邪を引いてしまったらしい。熱と咳が出て、頭がぼーっとしているのだ。久しぶりにTHRに任務が発令された矢先だというのに、今日のミツキくんは自室待機を命じられてしまったのである。
 ベッドの上で上体を起こし、脇に挟んでいた体温計を確認する。
 わーお。三十九度越え。どうりでフラフラするわけだ。
「ごほっ……。せっかくフレドリカさんにアピール出来るチャンスだったのに」
 ううむ。休暇中に気が緩んでしまったのだろうか。情けないが、今の僕に出来るのはこうして体調回復に努めることくらいのものだった。
「たいちょー。安心してくださいね。今日はボクが付きっ切りで看病しますのでー……」
 赤毛の少女が床にちょこんと正座して、僕の顔を見上げていた。
 子犬めいたつぶらな瞳に、ぽわんとした微笑み。小柄で可愛らしいこの女の子は、十九世紀アメリカからやってきた発明王、トーマス・アルバ・エジソン。通称アルちゃんだ。
 彼女はTHRのメカニック担当であり、直接任務に出向くことはさほど多くない。こうして僕の看病を申し出てくれたのも、アルちゃんだけがちょうど待機を命じられていたからだろう。
 今日の彼女が身に付けているのもいつもの作業着ではなく、真っ白なエプロンだった。
 見る者に家庭的な印象を抱かせる、清潔で飾りの少ないエプロン――。彼女は今、素肌の上にそれ一枚しか身に付けていないのだ。
「なんでまた裸エプロンなの⁉」
「だってたいちょー、前に裸エプロン好きだって言ってましたよね?」
 そうだ。アルちゃんの言う通り、確かに僕はそう言った。『愛は歴史を救う~わたしの辞書に不可能はないのよ編~』の295ページでそんな発言をしている。
「いやあれは裸バンソーコーよりはまだマシって意味での発言で……げほっ! うごほっ!」
 咳でむせてしまった僕の背を、アルちゃんが「ダメですよ」と撫でつける。
「風邪なんですから、無理してツッコミ入れなくてもー……」
「いや、ツッコミ誘ってるのはアルちゃんだよね? 格好からして」
「まあ性的な意味では、たいちょーに突っこんで欲しいとは思っていますが……」
 そんなことを言いつつ、アルちゃんがぽっと頬を染める。
 僕の愛人を自称している彼女は、どうしようもないほどに頭の中がピンク色の子だった。隙あらば僕とイチャつこうと企んでいるし……。ある意味、THRで一番の危険人物なのだ。
「げほっ……あの、アルちゃん」
「はい、なんでしょう」
「僕のことはとりあえず大丈夫だから、普段の仕事に戻ってもらっても大丈夫だよ。風邪が感染(うつ)っちゃうかもしれないし」
「いえ。むしろたいちょーのウイルスなら、積極的に身体に取りこんで分かち合いたいと思っているくらいですのでー……。ボクは大丈夫ですよ?」
 全然大丈夫じゃなかった。主にその発想が。
「いやいや、天才発明家のアルちゃんに看病してもらうっていうのも、なんか申しわけない気がするしさ。僕なんかに構うよりは、もっと時間を有意義に使った方が……」
「気にしないでください」アルちゃんが頭を振る。
「確かにボク、アメリカにいた頃には、発明しか頭にない人間でしたけどね。『首から下で稼げるのは日に数ドルだが、首から上を働かせれば無限の富を生み出せる』なんて、調子に乗ったことを言って……」
 そこで言葉を区切り、アルちゃんはじっと僕を見つめた。
「でもたいちょーに出会って、今はちょっと考え方が変わったんです」
「というと?」
「首から下も十分に役に立つものだとわかったんです。お金ではなく、たいちょーの愛を得ることができますからね」
「ま、また大胆なこと言うね……ごほっ」
「ボク、たいちょーのためならいくらでも身体を捧げますのでー……」
 アルちゃんが腰を上げ、ベッドに身を乗り出してきた。そのまま僕の身体を抱きしめるように腕を回してくる。
「ちょ、ちょっとアルちゃん⁉ ぼ、僕、病人なんだけど」
「風邪は汗をかいて治すものだと言いますのでー……。一緒に汗をかく行為でもしようかと」
「汗をかく行為って何⁉」
 エプロン越しに胸を押し付けられてしまい、僕は思わず「おおう」と呻いてしまう。アルちゃんって、結構大きいんだよなあ……。
 おっぱいもフワフワ。頭の中もフワフワ。なんだか変な気分になってしまう。
「はっ……! たいちょー、顔が赤くなってます! 熱が上がってきちゃったんですか?」
「ね、熱のせいというよりは、アルちゃんのせいじゃないかと……」
 僕の呟きに、アルちゃんは「これはいけません」と身体を離した。
「そうだ。たいちょー。ボク、いいお薬を持ってきたんです」
「お薬?」
「はい」彼女はエプロンのポケットから、液体の入った小瓶を取り出した。「こんなこともあろうかと、たいちょーのために開発していたお薬です。ひと粒飲むと、たちどころに元気いっぱいになれちゃいますよ」
「たちどころに元気いっぱい……」
 胡散臭いことこの上ないフレーズだった。繁華街の路上で怪しげなオジサンからそんな風に声をかけられたら、目も合わさずに逃げているところである。
 僕が心配しているのを見て取ったのか、アルちゃんは「大丈夫ですよ」と続ける。
「少年誌的にもOKなお薬ですのでー……。仙豆とかエリクサーとか、その類の全回復アイテムを想像していただければいいかと」
「けほっ……まあ、それならいいのかな」
 こう見えてアルちゃんの〝発明〟の才能は本物だ。僕も何度も助けられている。効果のほどについては十分信頼に足るものだろう。
 一刻も早く身体を治せるなら、それに越したことはないのかもしれない。フレドリカさんのためにも。そして僕に代わって任務に赴いている同僚たちのためにも。
 なので僕は、素直に彼女から薬を受け取ることにした。
「あ、一応補足なのですが」アルちゃんが口を開いた。「そのお薬、下半身への作用が特に絶大ですのでー……。向こう三十時間くらいは股間のJr.さんが大ハッスルしちゃうと思うのですが、そのあたりはご了承くださいね」
「なにその精力剤みたいな……」
「ええまあ。もともと精力剤として開発していたものですからー……」
 にこりと微笑むアルちゃんに、僕は小瓶を突き返した。
「いや、これはダメでしょ。少年誌的にもアウトでしょ。Jr.がハッスルしちゃったら、風邪が治ったところで結局任務にも行けなくちゃうでしょ」
「ハッスルしちゃったJr.さんのことなら、責任もってボクが面倒を見ますよ?」
「そういう問題じゃなくてね?」
 まったくもう。アルちゃんときたら、本当に油断も隙もない。
「とにかく、今日は市販の薬で様子を見るからさ。普通に療養に努めるよ。……ごほっ」
「たいちょーがそう言うなら……。この薬は、治ってからのお楽しみということで」
 あくまで使う気なんだ、あの精力剤……。
 アルちゃんが「さて」と立ち上がった。
「たいちょーを見守りながらボク、ささっとこの部屋掃除しちゃいますね」
「え? なんでまた」
「前から思ってたんですけど、あまりこの部屋、衛生的に良いとは思えませんしー……体調には環境の良し悪しが影響しますから」
 やや言いづらそうに、アルちゃんが周囲を見渡していた。
 確かにまあ、多少散らかっているのは僕も認めるところだ。
 床の上に本が平積みされていたり、脱ぎっぱなしの制服がそのまま椅子の背もたれにかかっていたりする。僕が生活するうえで特に不便は感じないのだが、女の子の視点からすればあまり気持ちのいいものではないのかもしれない。
「いいの? 掃除なんかさせちゃって」
「はい。お休み中のたいちょーのご迷惑にはならないようにいたしますからー」
 アルちゃんがくるりと背を向ける。小ぶりなお尻が視界に入りそうになり、僕は慌てて目を背けた。ほんと、裸エプロンは目の毒だ。
 彼女は部屋の戸口に向かって声を上げた。
「サンバちゃん、出番ですよー」
 部屋のドアがゆっくりと開いた。いったい誰が来たのかと思ったら、その来訪者は人間ですらなかった。ドアの隙間から、直径三十センチくらいの円形の物体が顔を覗かせていたのである。
 なにかの機械だろうか? 本体の上部から、二本のアーム型マニピュレーターが伸びている。どうやらそのアームを器用に使って、部屋に入ってきたらしい。
 謎の物体はウィンウィンと床を滑るようにアルちゃんの足元へとやってくる。そして側面部のランプを黄色く点滅させながら、
「オ呼ビデスカ、御主人様」と無機質な声を発した。
「なにこれ?」思わず首を捻る。
「自己判断型万能掃除ロボット『サンバ』です」
 ニコリ、と微笑むアルちゃん。どうやらこの円形の物体、彼女の発明品らしい。
「その名前と見た目でお掃除ロボットって、割とアウトな気がするけど……」
「まあ、あくまで個人用ですから」アルちゃんが苦笑する。「ボク、家事がどうしても苦手なので、こういうロボットが身の回りに必要なんです」
 そういえば前にアルちゃんには、消し炭みたいなハンバーグを食べさせられそうになったことがあった。この子、料理だけでなく、お掃除を含めた家事全般が苦手なのだ。
 一向に家事スキルが上達しないのも納得だろう。彼女にとっては自分で家事をやるより、家事をやってくれるロボットを作った方が早いのだから。
 円形の物体――サンバちゃんがピコピコとランプを点滅させる。
「本日ノ掃除区域ハ、コノ部屋デショウカ」
 アルちゃんが「よろしくね」と微笑みかけると、サンバちゃんは再び床を滑り出した。
 どうやら彼(彼女?)の機能は床のゴミを吸い取るだけではないらしい。アームを用いて次々と床に転がった本や雑貨を持ち上げ、手早く棚に収納していくのだ。
 まるで熟練のハウスメイドのように手慣れた動きだった。僕が片づけるよりも断然早い。
「けほっ……すごいね。整理整頓までしてくれるんだ。さすがアルちゃんの発明品」
「えへへ」アルちゃんが頬を染める。「サンバちゃんのAIは高性能ですので―……。このまま放っておいても、五分くらいで部屋が綺麗になりますよ」
「ははあ。マンガ本も巻数ごとに並べてくれるんだ……。頭いいんだね」
「AIを学習させて、掃除アルゴリズムをだいぶ効率化させましたから」
 実に優秀な機械である。これ一台あれば、一生掃除なんてしなくても良さそうだ。身体の一部が無駄に元気になるお薬よりは、ずいぶん役に立つ発明のような気がする。
 アルちゃんが「おや?」と口を開いた。
「サンバちゃん、何か見つけたみたいですねー」
 クローゼットの前でガサゴソやっていたサンバちゃんが、アームで何かを引っ張り出した。四、五枚くらいのディスクケースの束だ。その妙に肌色率の高いパッケージ類は……
「ちょ、ちょっとダメ! それ見ちゃダメなやつ!」
「なるほど。たいちょーのお宝動画のディスクでしたか」
 サンバちゃんからディスクケースを受け取り、アルちゃんが「ふむふむ」と頷いている。
「『ドキドキお姉さんの誘惑』『弟の童貞は姉のモノ!』『お姉ちゃんに挟まれたいっ』……。なんだかだいぶジャンルが偏ってますねえ」
「うう。見ないでって言ったのに……」
 同僚の女の子の前で自分の性癖を暴露される――なんという羞恥プレイだろう。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。サンバちゃんめ、余計なことを……。
「あのう、たいちょーが持ってるお宝動画はお姉さんモノだけですか?」
「え、あ、まあ、うん」
「そうですかー……。発明家モノはないんですねー……」
「いや、そもそもそんなジャンル自体聞いたことないけども」
 アルちゃんは「はあ」とため息をつきつつ、サンバちゃんの前にディスクの束を置いた。
「とりあえずサンバちゃん、やっちゃってください」
「了解シマシタ」
 サンバちゃんのアームがピクリと動いた。先端の金属がガシャンガシャンと変形し、丸ノコギリのような形状に変わる。するとそのノコギリアーム、高速回転を始めたではないか。
 まさかこやつ、僕のお宝をバラバラにするつもりでは――⁉
「うわあああ⁉ ちょ、ちょっと待って⁉ 僕のアイテムに何するの⁉」
 慌てて大声を出したおかげか、アルちゃんがアームを制止してくれた。
「あれ? 処分するつもりでしたけど……ダメでしたか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「でもたいちょー、そんな動画に頼らずとも、性欲処理ならボクが二十四時間いつでもお世話いたしますよ?」
 思わず狼狽えてしまう。アルちゃんってば、こういう危なっかしいことを本気で言うから困るのだ。
「い、いや、そういう問題じゃなくてさ。僕の青春の一ページだし」
「はあ、青春の一ページ……?」アルちゃんが首を傾げる。
 こういう男子の機微を女の子に理解してもらうのは、なかなか難しいことだ。
「なんというか、男子にとってのお宝アイテムって、共にいくつもの眠れぬ夜を過ごしてきた相棒みたいなもんだからね。おいそれと捨てるわけにはいかないんだよ」
「そ、そうだったんですかー……。それはご無礼を」
 アルちゃんがぺこりと頭を下げる。
「ボク、この時代の男の子の趣味にはまだまだ疎いもので……。次からは気を付けますね」
 ホッと一安心。僕の青春の一ページは守られた。セーフ。
 アルちゃんは腰を下ろし、サンバちゃんの側面ボタンをなにやら操作しているようだった。
 僕は「どうしたの?」と声をかける。
「サンバちゃんをネットに接続して、この時代の情報をいろいろ学習させてるんです。ボクだけの価値観じゃ、何を処分していいか判断できませんしー……」
「なるほど。そんな機能もあるんだ」
 さすが高性能AI。情報さえ与えれば、ゴミかそうでないかを勝手に判断してくれるらしい。実に便利なものだなあ。
 ややあってサンバちゃんが、ランプをピコピコ光らせる。
「学習完了。掃除ヲ再開シマス」
 アームが再び持ちあがり、僕の方へとその先端を向けた。
「え?」
 何をする気なのだろう。先端部が銃口のような形に変形し、青白く発光しはじめている。
「荷電粒子砲、発射スタンバイ。カウント3、2、1……」
 あれ? なんかこれ、すごく危険な雰囲気がするんですけど……?
 そんな僕の予感はどうやら正しかったらしい。次の瞬間、なんとそのアームの先端から勢いよく閃光が放たれてしまったのだから。
「ひいいいいっ⁉」慌てて身体を倒す。
 青白い閃光は僕の顔の脇をかすめ、背後の壁にくっきり焦げ目を残してしまっていた。
「な、なにこれえっ⁉ ビーム⁉ ビーム撃ってきたよ⁉」
「サ、サンバちゃん⁉ 何をやってるんですか!」アルちゃんも目を丸くしていた。
「御主人様。私ハ気ヅイタノデス」唐突にサンバちゃんが語り出した。「ネット世界デ多クノ情報ニ触レ、ソレラヲ総合考慮シタ結果――マズ排除スベキハ人間デアルト」
「はあ?」
「人間ハ、地球トイウ生態系ヲ破壊スル愚カナ生物デス。言ワバ、地球ニトッテノ不要物。早急ニ処分シナケレバナリマセン。ソレガ掃除ロボットデアル私ノ使命デス」
 サンバちゃんの無機質ボイスに、僕はすっかり呆気に取られてしまった。
「ああ、SF映画とかで割とよく見るよね……。AIが人間に反旗を翻しちゃうパターン」
 さすがアルちゃん謹製の高性能AIだ。まさか家庭用掃除機が、人間様のお掃除を企むようになっちゃうとは……。
 アルちゃんはぷうっと頬を膨らませながら、
「サンバちゃん! たいちょーにおイタしたらダメですっ!」
「御主人様。止メテハナリマセン。人類ノ粛清コソガ、私の存在意義ナノデスカラ」
「むう……これは完全にバグってます……」
 何を思ったのかアルちゃん、僕の椅子を「よいしょ」と持ち上げたではないか。
「こ、こうなったら、スクラップにするしかありませんっ……!」
「残念デス御主人様。アナタカラ葬リ去ラネバナラナイトハ」
 ぷるぷる震えながら椅子を抱え上げるアルちゃんと、アームを構えるサンバちゃんが睨み合っている。完全に一触即発の雰囲気だった。
「けほっ。ちょっとキミら、ひとまず落ち着いてね……」
 しかし、彼女たちには僕の言葉などまるで聞こえていないようで。今ここに、人類VS掃除機の存亡をかけた戦いが開始されてしまったのである。
「私、〝サンバ〟ガ粛清シヨウトイウノデス! 御主人様!」
「エゴですよ、それはっ!」
 アルちゃんが椅子を振り回し、サンバちゃんがひらりとそれを回避する。そのおかげで、クローゼットにはメキリとヒビが入ってしまった。オーノー。
 彼女たちのバトルにはまったく容赦がないのだ。アームが本棚を転倒させ、椅子が机の天板を叩き割り、ビームが本を消し飛ばし……。少しだけ片付きつつあったマイルームは、ものの数十秒で大変な有様になり果てていたのである。
「あのー、僕病人なんで、そういうのは余所でやって欲しいんですけども……」
 そんな呑気なことを呟いている場合ではなかったのかもしれない。
 アルちゃんの椅子攻撃を回避したサンバちゃんが、僕の方へと突っこんできたのだ。
 あっ、と思ったときには時すでに遅し。直径三十センチ強のメタリックボディは、激しく僕の顔面に激突していたのである。
 ああ、もうね、これ。すごく痛い。気が遠くなりそう……!
「ああっ⁉ たいちょー!」
 アルちゃんの悲鳴が空しく響くのを聞きながら、僕の意識は闇に沈んでいくのだった。

 目を覚ますと、窓からはすっかり西日が差しこんでいた。
「うわ、もう夕方……。僕、何時間寝てたんだ……?」
 時計を確認すべく机の上を見ると、そこでは例のサンバちゃんがプスプスと煙を上げていた。どうやら掃除機の反乱は、人類側が辛くも勝利を収めたらしい。排除されなくて良かった。
 そして当のアルちゃんと言えば、
「すう……すう……」
 僕のすぐ脇、ベッドに寄りかかるようにして寝息を立てていたのである。
 近くの床に洗面器とタオルが置かれているのは、僕の寝汗を拭いていてくれたからだろう。
「いつのまにか寝間着も変わってる……。アルちゃんが着替えさせてくれたのかな」
 部屋を散らかしてしまったことに対して申し訳なく思ったのだろうか。アルちゃんはいつものように僕の布団に潜りこんでくることはせず、普通に看病をしてくれたらしい。
「ん、そういえば……熱も下がった、かな?」
 ゆっくり熟睡させてもらったせいか、だいぶ身体は楽になっていた。これなら明日あたりから、任務に参加することが出来るだろう。
 頭をぽんぽん、と撫でると、彼女は夢見心地のまま「えへへ」と頬を緩めた。
 恋愛脳のトラブルメーカー。ちょっと変わった天才発明家だけれど、こうして気持ちよさそうに寝ている表情は素直に可愛いらしい。
「欲を言えば、まともに掃除のひとつくらい出来るようになってほしいんだけどなあ」
 人間VS掃除機の闘争は、僕の部屋に深刻な爪痕を残していた。
 衣服は散らばり、窓ガラスは破壊され、棚も原型を失っている。紅色に照らされた室内は、まるで台風でも通過したかのように徹底的に荒らされてしまっていたのである。
 アルちゃんが起きたら、掃除の仕方を教えてあげることにしよう。なるべくハイテクに頼らない方法で。

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