巻頭カラーやセンターカラーで背景イラストを描く七原しえさんの記事をお届け!
1枚の絵で起承転結まで物語を想像できるような要素を詰め込む
── イラストを描き始めたキッカケをお聞かせください。
写真を始めるつもりで一眼レフカメラを買う予定でしたが、ネットで商品を検索していたところペンタブレットの広告を見つけ、興味が湧いてそちらを購入することにしたのがキッカケです。なのでイラストを描き始めたのは社会人になってからなんです。学生時代は、研究で大学にずっと寝泊まりするような生活をしていたため、就職してから急に時間に余裕が出来てしまい、趣味を見つけようとペンタブレットを購入したんです。しばらくblogやpixivに描いたイラストを載せていましたが、書籍表紙イラスト制作のお声がけを頂き、徐々に商業イラストを手がけるようになりました。数年前から専業イラストレーターとして書籍表紙やカードゲーム、ゲームキャラクターデザインなどの分野で活動を続けています。「ジャンプ」関連では現在発売中の『ONE PIECEカードゲーム』のイラスト制作を担当しているため、もしかしたら読者の方でも目にされている方がいらっしゃるかもしれません。
── 描く題材はどのように決めていますか?
オリジナルイラストは基本的に和風・和柄ファンタジーのみです。なかでも妖怪や民俗芸能・伝承が好きなので、資料を読んだり実際に実物を見に行ったり、そこから想像が膨らむような物語を思いついたらテキストで内容を箇条書きにしてから、イラスト制作に取り掛かっています。
── イラストを描く際に大事にしていることをお聞かせください。
イラストを見た人が、1枚の絵で起承転結まで物語を想像できるような要素を詰め込む事を一番に考えています。漫画とイラストは、漫画は枚数を重ねることでストーリーを生み出す、イラストはその1枚でストーリーの全てを説明する、という点が大きく異なる部分かなと考えています。要素を詰め込み過ぎると、見ている人の視点が定まらず曖昧で印象に残りにくいイラストになってしまうため、画面全体を盛りつつ、且つ人物が何をしているのかがはっきり分かるようなデザインになるよう心がけています。
── 今後挑戦したいテーマはありますか?
ここ数年は商業イラストに専念していましたが、以前にオリジナルイラスト画集を出してからしばらく経ったので、そろそろ続きを出したいと思っています。商業とオリジナル制作の両立はなかなか難しいのですが、なんとか頑張ってみるつもりです。
自分の得意分野や好きな題材を常日頃から明言しておくのは大事なこと
── 七原先生は『逃げ若』でどのようなお仕事をご担当されているのでしょうか。
「週刊少年ジャンプ」本誌での巻頭カラーなど、カラーイラストの背景制作を担当しています。松井先生からいただいた指示書に従って人物以外の背景部分を制作し、最終的に一枚絵として完成品にまで仕上げるのが私の主なお仕事内容ですね。
── 『逃げ若』のお仕事をすることになった経緯をお聞かせください。
『逃げ上手の若君』を連載するにあたり、舞台が【日本】ということで、「週刊少年ジャンプ」本誌カラー用に和風テイストが得意なイラストレーターを探されていたと前任の編集さんから伺っております。『逃げ若』の連載では松井先生の作業のご負担がなるべく減らせるよう、単行本表紙の背景は日本画家さん、筆文字は書道家さん、鎧などは3D素材担当さんと、それぞれの分野の担当が分担して作業を行っています。私はオリジナルイラストでは和風創作イラストをメインに制作しているため、お声がけ頂くことになりました。以前、編集さんに「どのようにしてイラストレーターを探したのか」をお聞きしたことがあったのですが、「SNSで【和柄・和風イラスト】と検索したら名前が出てきた」と伺ったため、得意分野や好きな題材を常日頃から明言しておくのは大事なことだと再認識しました。
── 松井先生とお仕事をしてどのような人物でしたか?
松井先生も私もデジタル制作ですので、実は直にお会いしたことはないんです。原稿は完全にオンライン上のみのやり取りとなりますが、非常にスムーズでしたし、お仕事の進め方が非常にロジカルだなと感じました。順序を立てて考えたり、計算して物事の配分を推し量ったりするのが得意なんだろうなと。こちらとしても、とても勉強になりましたね。
── 背景を描く際はどのような流れで進むのでしょうか。また、各進行で気をつけていることをお聞かせください。
基本としては、まずラフに従って私が制作した完成手前の背景イラストに松井先生が人物を加筆します。そのままでは背景と人物が浮いて見えるため、次に私の方で背景の色と人物を馴染ませエフェクトや人物手前の花などを追加、最後にパーツ配置や塗り残しなどイラスト全体を整えて完成となります。前述にて言及していますように、今回の連載はなるべく松井先生のご負担が減るような制作体制で作業を行うことが大前提ですので、先生は人物の描き込みと各段階の簡単なチェックだけで済むよう、お手間を取らせないようなオートマチックな進行を心掛けました。
↑イラスト制作の進行をお聞きした際に参考にしたのは最終話センターカラー。『逃げ若』の歴史が感じられる豪華すぎるイラストに仕上がっているぞ!
イラストは超高画質、解像度を限界まで上げての制作
── カラーイラストの制作期間はどのくらいなのでしょうか。
1ページの場合、背景イラストの完成まで大体3~4日程度ですね。その後、人物を合わせて完成まで仕上げるのに1日前後となります。見開きは面積が広い分、更に時間がかかります。時行たちが浜辺で鯛や伊勢海老などのご馳走を食べているカラーイラストがありましたが、料理のイラストは普段描く機会がないため思ったより時間がかかりました。ただ、いかに「食」を美味しそうに見せるか考えながら描くのはとても楽しかったです。
↑完成まで思ったより時間がかかったという、海の幸・山の幸がてんこ盛りのイラスト。鯛や伊勢海老など、「美味しそう」が溢れている1枚だ!
── 『逃げ若』に携わって面白かった&大変だった部分をお聞かせください。
現代風の背景などを描かせて頂く機会が時々あり、普段あまり描かないような内容でしたので非常に新鮮でしたね。特にPCの中から尊氏が出てくるイラストは斬新でしたし、めったにない制作経験をさせていただきました。大変だった部分はファイルサイズです。大判ポスターなどの拡大印刷でも問題無いよう超高画質、解像度を限界まで上げての制作でしたので、とにかくファイルが重すぎて開かない&作業中に落ちる、固まる、動かないというトラブルが頻発して松井先生にもたびたびご迷惑をおかけしたかと思います。その節は大変失礼いたしました。
── 『逃げ若』のお仕事で、お気に入りイラストをお聞かせください。
時行が大きな猫に乗った夏のイラストがお気に入りです。イラストレーターは殊更絵柄の主張が激しい生き物ですが、このイラストは先生の絵柄とこちらの絵柄が上手く調和してミックスされた1枚に仕上がったかなと思っています。
↑七原先生のお気に入りイラスト。和風ファンタジーのテイストで描かれた巨大な猫は時行と相性抜群!
── 『逃げ若』の魅力をお聞かせください。
ファンタジーかと思いきや、実際の史実の下調べや取材がしっかりと行われた上で齟齬の無いストーリーが展開される話の流れが非常に素晴らしいと思います。『逃げ若』はギャグとシリアスと史実がバランス良く配分されていると感じます。最初から笑いっぱなし、破天荒な回だなと思っても史実上の展開では正しいとされている。その辺りが違和感なく演出されているので、読む側も良い意味で気持ち良く先生の手の上で転がされる事になります。
── 『逃げ若』で好きなキャラや場面を教えてください。
登場する人物全員が個性的なキャラクターで選びづらいのですが、中でも玄蕃君と夏ちゃんの忍コンビがお気に入りです。初めは主人公と敵対関係にあったキャラクターが仲間になり、自分の役目を見出していくという過程が良いですね。特に夏が玄蕃に振り回されながらも楽しそうにしている様子が大好きです。
── 完結した『逃げ若』の感想をお聞かせください。
5年間あっという間でした。戦乱の世を逃げ続けた時行の一生を最後まで間近で見ることができ、本当に良かったです。史実で最期が判明しているキャラクターをどのように少年誌で描くのか、楽しませて頂きました。「週刊少年ジャンプ」本誌では完結しましたが、単行本は続きますしTVアニメ第二期も始まったので、松井先生にお疲れ様でした、とお伝えするのはまだまだ早いかな、と思っています(雫や亜也子、逃若党メンバーのその後の外伝などもぜひ読んでみたいなと…)。
七原しえプロフィール
青森県出身。和風・和柄ファンタジーを描くイラストレーター。幻想的かつ美麗、高密度の筆致が特徴的で、TCGやソーシャルゲームのイラストを中心に幅広く活躍中。2022年にオリジナル画集『緋花 根の国底の果て 七原しえ画集』(KADOKAWA)を出版している。

