――お互いの連載作品(『青の祓魔師』『ムーンランド』)について、魅力に思うところはどこですか?

加藤 『ムーンランド』はすごく技術が高い漫画ですよね。読切の頃から山岸さんの漫画は「丁寧な漫画!」という印象でしたが、最近は体操シーンに慣れも出てきてラフな感じも加わり、さらに見やすくなっていますね。他にも心理描写や体操競技の解説も細かく描かれていて、とにかく色んな意味で上手いです。キャラクターのドラマでしっかり引っ張られているから、体操に詳しくなくても面白さが伝わるのもいいですね。

連載中にどんどん進化していく体操アクション。ラフな部分で勢いを表現。

山岸 うわぁ、ありがとうございます(笑)。

加藤 漫画から本人の人柄が出ていますよね。山岸さんって我々オタクが理想とする「硬派なオタク」なんですよ。上辺だけなぞるミーハーオタクではなく、興味があることはとことん調べて突き詰めて「どこが面白いのか」を究明するという。オタクたちの尊敬を集めるオタクです(笑)。だからこそ『ムーンランド』は、実際に体操をやられている方にも評価されているのだと思います。

 ――オタクの尊敬を集めるというのは、すごい的確な表現ですね。

加藤 それってつまり「目の肥えた読者に認められる」ということなんです。しかもそういった「分かっている人」の評判があれば、ライトなお客さんも入ってきてくれる。これが初連載というのだからすごい!

山岸 でも、連載に到達するまで7年くらいかかってしまいました(笑)。ちょっと長すぎでしたね…。

――山岸先生は先程、『青エク』を読んで加藤先生のアシスタントを希望されたとのことでしたが…?

山岸 「ジャンプSQ.」に持ち込みに行った時、その時見て下さった林さんが『青エク』の話をしていたんです。「読まなきゃ」と思って本屋で単行本を見た瞬間「この絵、好き!いい!!」と、そこから入り込みましたね。私が『青エク』で好きなのは、キャラクターがみんな活き活きと動き回っているところです。言葉と絵の相乗効果で「このキャラはこういう風に考えている」「こういうものが好き」という存在感が伝わってきます。このキャラクターが弾ける感じは、私にはとても出せない。あとサブキャラとか悪魔とか、端っこのキャラも遊び心がありますよね。色んなキャラがいることがワクワクします。

――お互いの作品の好きなキャラクターや場面をお聞かせ下さい。

加藤 一人に絞れませんが、敢えて挙げるなら暁良が好きです。絶対的な強さがあり、しかもムカつく奴で(笑)。出てきた時のワクワク感はすごかった。他にも満月や朔良、周くんとか。最初はメインキャラを追って読んでいましたが、新キャラも掘り下げられて「こいつはこんな奴だったんだ、いいなぁ」と、じわじわと積み重ねられていきますよね。暁良も最近は「実は天才キャラではなかった」という面が出てきて、味わいが深まります。

最強の敵ポジションの暁良。物語が進むにつれ内面の葛藤も描かれていく。

山岸 私はずっと言っていますが、雪男推しです(笑)。

加藤 また難解なキャラを…(笑)。

山岸 雪男が燐たちから離れる過程を、加藤先生は時間をかけてじっくり描かれていたので、そこで「ああ…」と感じ入ってしまいます。雪男って落ち着いているけれど十代で、ある意味、年相応の行動なんですよね。そしてついに騎士團を出て行った時は「とうとう決意したか」と、悲しい話ですが魅力的に映りました。

物語とともに雪男の表情は暗く沈んでいき、ついに兄との決別へ…。

――お二人の連載作は「ダークファンタジー」「スポーツ」という異なるジャンルですが、お互いのジャンルに興味はありますか?

加藤 私の家族はスポーツをしていて、私自身も陸上クラブに入ってはいたのですが、自分がスポーツ漫画を描くとなると厳しいですね。もしスポーツものを描くとなると、勉強しないと無理です。一度、スケートのショートトラックに興味があったことがあります。陸上みたいにシンプルな面白さがありますよね。そしてあの全身タイツみたいなスーツで競技して、ゴールした後に頭のフード部分をバーンと下ろす、あの瞬間がものすごくカッコいい!そこだけを描きたい(笑)。こんなミーハーな人間には一生描けませんよ。山岸さんみたいにたくさん取材して、常に相談できるブレーンが付いてくれないと。『ムーンランド』では体操の点数がすごく細かく描かれているけれど…あれ、山岸さんの趣味だよね?

山岸 そうです(笑)。趣味の延長でスコアを考えて、競技として無理がないか水鳥(寿思)さんに監修して頂いています。

加藤 オタク趣味が漫画になっている…素晴らしいですね!

得点システムを分かりやすく解説。読者も楽しみながら勉強できる。

山岸 私は読切で一度ファンタジーに挑戦していますが、ファンタジーって、自分が描くとどうしてもダサくなる気がするんですよ。そのダサさへの恐怖感というか…。

加藤 山岸さんには歴史ものを描いてもらいたい!完全なファンタジーだとオリジナル要素も考える必要があるけれど、歴史がベースにあれば、例えば江戸時代の社会風俗をオタク能力を発揮して調べて上げて描くとか。そこに山岸さんならではのドラマ能力も発揮して。

山岸 いいですね!そういう調べもの、大好きです。それにファンタジーを描かれる方って、加藤先生もそうですがファンタジー作品をすごい見ているじゃないですか。私はその点で中途半端なので、ファンタジー好きのツボを押さえることが難しそう。でも、資料だけは集めているんですよ。中世の武器図鑑とか。いつかはまたファンタジーも描きたいので、勉強はしておきたいですね。

――山岸先生は『青エク』のアニメのアフレコや舞台のレポート漫画といった、取材作品も描かれていましたね。

『青エク』アニメ2期のレポート漫画。JC『青の祓魔師』19巻に収録。

加藤 ちょうど本人も煮詰まっていたようだった頃に、林さんのお口添えで描いてもらいましたね。

山岸 実はあれって、人生を変えるくらいの仕事でした。特にアニメのアフレコレポートは、それまでで一番褒められた漫画です(笑)。

加藤 山岸さんは真面目に分析するタイプなので、取材に入るとすごいメモを取って、何がどうすごいか押さえて、きちんと漫画に落とし込む技術があるんです。だから最上級のレポート漫画ができちゃった!本当に向いていたんだなぁ…。

山岸 『青エク』のレポート漫画があったから林さんから「取材して作る漫画がいいんじゃないか」と言われて、それが元々好きだった体操に繋がったんです。だからあの仕事ができて本当に良かったです。

加藤 そのままレポート漫画専門に転向しなくて良かった(笑)。『ムーンランド』であれだけのドラマを描けるんだから、やっぱりフィクションのエンタメを描いて欲しい。