ジャンプ・ノベル × 少年ジャンプ+ スペシャルコラボ ジャンプ・ノベル × 少年ジャンプ+ スペシャルコラボ

 来週から中学生になるからと、携帯電話を買ってもらった。
 安全性のこともありネットには接続できない設定らしいが、メールは受けとれるし当然電話もできるし、スマホゲームもダウンロードすればできる。
黒川「良かったわね、槍牙くん。ほら、電話帳も私の連絡先が一番に入っているわ」
 幼馴染ということもあり、うちの母親から全幅の信頼をなぜか置かれている黒川に手伝ってもらって、機械音痴の俺でも初期設定が終わった。
 気持ち悪いストーカー女でもあるが、助けてほしいときはすごく頼りがいがある。
 ……本当、付きまとわれたりベッドにもぐりこまれたり、トイレやお風呂をのぞこうとさえしなければいい奴なんだが。
 あと奥さんとか恋人とか自称しなければ。
黒川「それと電話帳の二番も私がいただいたわ」
槍牙「同じ顔写真と名前と電話番号とメールアドレスが並んでいるんだが」
黒川「それと三番と四番と五番と六番もいただいておいたわ」
槍牙「七番目にしてようやく自宅の電話番号が入ったな。えーと、あと中学校の電話番号と……」
黒川「いいえ。八番目から千番目まですべて私の連絡先で埋めておいたわ」
槍牙「これ三時間前に買ったばっかりなんだけど!」
 電話帳は「黒川夢乃」と「自宅」で埋められてしまった。
 夜になったので黒川を家に帰した一時間ほど後、ダウンロードしてもらったカーレースゲームをやっているときだった。
着信音『槍牙くん、メールよ』
槍牙「この着信音、どうやって変えりゃいいかな……」
 うんざりするような黒川ボイスに青ざめながら、メールを見てみる。案の定、それは黒川夢乃からのメールだった。
黒川『槍牙くん。スマホの使い方にはもう慣れたかしら?』
 レースゲームをしている最中だったし、面倒だったので返信を後回しにしてゲームを再開する。
着信音『槍牙くん、メールよ』
 また黒川からメールである。
黒川『槍牙くん? どうして私にメールを返してくれないのかしら? もしかして無視? そんなことされたら私悲しくて苦しくていますぐ槍牙くんの部屋まで行って問いつめたくなっちゃうわ』
 仕方なく「まだ慣れない」とでも打ちかえそうと思った途端、また。
着信音『槍牙くん、メールよ』
 メールが来たので開く。
黒川『こんなに返信が遅いのはおかしいわ。ねえ槍牙くん。一体どうしたの? もしかして女? 槍牙くんに迫る女が私へのメールを返させないのね、ええわかったわ。いますぐそっちへ行くから待ってて』
槍牙「どっから出てきたんだよ女って!」
 メールだとまだろっこしいので、電話をかける。一コール目が終わる前に黒川が出た。
黒川『槍牙くん! 嬉しいわ、槍牙くんから初めて私にかけてきてくれたのね!』
槍牙「黒川。俺、まだメールに慣れていないし、ゲームが楽しいから返信していないだけだから。なんもないから」
黒川『そう言わされているのね!』
槍牙「違う! 俺の部屋には俺しかいねえよ」
 数分の応酬があって、ようやく黒川は納得したらしく、そのまま俺の部屋まで来ようとしたのだがそれも拒み、静かになった。
槍牙「……充電しよ。マナーモードこれかな。毛布にくるんでおけば振動音もしないだろう」
 それから俺は風呂に入った。上がってから部屋に戻、寝る支度を始める。ベッドに入る前に携帯電話を開く。
 レースゲームをちょっとやってから寝ようかな、なんて思ったのだ。
電話72件 メール58件
槍牙「……………………三ケタいかなかっただけ、まだいいほうか」
 自分をなぐさめる言葉にも力が入らない。メールだけ、飛ばし飛ばしで見ることとした。
黒川『ねえ槍牙くん。充電とか忘れないでね? いざというときに連絡が取れないと困るから』
黒川『槍牙くん、いまはお風呂かしら? 水曜日だけどお義母様がいつも観ている番組がやっていないから、少し早まったのかしらね?』
黒川『お風呂に三十分以上入らない槍牙くんが、どうしてまだメールを返してくれていないのかしら。私、とっても心配だわ』
黒川『槍牙くん。「好き」の一言だけでもいいの。メールをちょうだい』
黒川『いま槍牙くんの家の前にいるわ。お風呂にいるのね。窓が開かないわ』
黒川『槍牙くんの下着、とっても被り心地がいいわ。今日は私が洗濯するから安心してね』
黒川『一応、画像も送っておくわね』
 俺のトランクスを被るゴシックロリータの女という怖気のする写真が添付されていた。
黒川『槍牙くんが返信してくれない理由がわかったわ。お風呂にスマホを持ちこんでいないからね』
黒川『ちゃんと充電してくれているみたいで助かったわ。私からの電話やメールを逃さないでくれるためね』
黒川『ねえ槍牙くん。おかしなことに気づいたのだけれど。どうして振動を押さえるように毛布に挟みこんでいるのかしら?』
黒川『槍牙くんが思うほど振動の音は家人の邪魔にならないから、安心していいわよ』
黒川『試しに毛布から出しておいてあげるわね』
黒川『いえ、ちょっと待ってね。槍牙くんがびっくりしてしまうのは忍びないからもう一度毛布に挟んでおくわね』
黒川『あ』
黒川『』
黒川『ごめんなさい』
黒川『いえ、むしろこれご褒美かもしれないわね』
黒川『うふふふ』
黒川『お風呂上がりの槍牙くん、色気があってたまらないわ』
黒川『いまパジャマの中、しっとりと湿っているんでしょうね。パジャマになりたい。布地となって槍牙くんの肌にぴったり貼りつきたいわ』
黒川『大きなあくびね。もう眠いのかしら』
黒川『寝るのかしら? 寝るのね』
黒川『スマホのこと、忘れていないかしら?』
 ぶー、ぶー、と携帯電話が震えて、新しいメールを受けとった。
黒川『いま、あなたの後ろにいるの』
 振りむく。
 俺のトランクスを被ったゴスロリ女が、立っていた。