――山岸先生は『ムーンランド』の連載で、続けることの苦労や新たに発見したことはありますか?

山岸 今まで読切は何回か描いてきましたが、連載における「話の引きが重要」ということを全然自覚できていませんでした。担当の林さんからはずっと「引きが大事」と言われてきたのに、「次が読みたくなるって、どういうことだろう?」と(笑)。最近ようやく「引きをきちんと作れば1話として成立する」ということが実感できるようになり、それが大きな発見ですね。

――『青の祓魔師』(以下、『青エク』)は10年以上の長期連載作品です。ここまで続けることができた秘訣をお聞かせ下さい。

加藤 長過ぎますよね…。秘訣は、分かりません(笑)。最初に運よくアニメが決まり、そこで読者が一気に増えて、たくさんの方の応援で続けることができたというイメージしかないです。10年続けるために何かをやったということはなく、人気が急に落ちることもなかったから続けられているのだと思います。長期連載をされてる他の先生方はどう凌いでいるのか、逆に聞いてみたいです。

――長期連載で一番大変だったことは何ですか?

加藤 変わっていくことですね。理想は読み始めた読者が結末までたどり着いてくれることですが、10年という年月だと途中で脱落する人もいて、その代わりに入ってくる読者もいて…。読み続けてくれる読者さんの内面も変わっていくし、そもそも私自身も変わっていく。元々『青エク』は多くの読者が好きなものを想定して始めたものでした。「みんなが好きな漫画は何だろう?」と自分なりに考えて。それがこんなに続いてしまうと、描き始めた頃とは時代も流行も価値観も変わりますしね。

――今「ご自身が純粋に描きたいもの」はどれくらい意識していますか?

加藤 連載当初は自分が描きたいもの40%、みんなが好きそうなもの60%くらいの割合の意識でしたが、今はそれが逆転している感じですかね。話が展開して深まってくると、結局自分の引き出しの中から取り出して描くしかない。最初のライトな作風を気に入って読み始めた読者さんには申し訳ないなとも思うのですが。今の担当さんがフラットに見てくれているので、よく意見を聞いています。

長年のキャラと物語の積み重ねにより、より壮大な作品へと育ちつつある。

――山岸先生は読者に対して、どんな意識をされていますか?

山岸 「少年ジャンプ+」は読者のコメントが見やすい媒体ですし、反響があった回もチェックしています。「ここは勝負回!」という時は反応も多く、何を気に入って頂けたのかも分かります。でも、コメントをしない読者の方がずっと多いんですよね。そんな人たちにも、もっと好きになってもらいたいのですが、果たしてどうすればいいのか。結局、自分が考えているものをより面白く、よりいい絵を入れるしかないのだと思います。

――『ムーンランド』の執筆で、加藤先生もしくは『青エク』の影響が色濃いと感じる部分はありますか?

山岸 集中線ですね。『青エク』の集中線はすごくカッコいいので、動きのある大事なシーンは『青エク』をイメージしています。『青エク』の原稿では加藤先生が集中線のラフを入れていましたが、場所や入り方が的確で、「漫画にとって集中線はすごく大事」と学んだんです。あと表情の描き方も影響を受けています。加藤先生の描く表情って、感情が出る時ほど整っておらず、それが心をつかむ表現になっているんです。私もキャラの心情が現れるところでは、敢えて崩して感情を見せるようにしています。

加藤 表情は大事ですよね!やっぱり山岸さんも表情萌えの素養があるんだね(笑)。

――ところで素人目線で恐縮ですが、集中線というものは作家さんや作品でそこまで変わるものなのですか?

加藤山岸 (即答)違いますね。

加藤 少年漫画は全体的に集中線は多めですが、作品ごとでも違いますね。私の集中線は恐らく、『るろうに剣心』の和月伸宏先生の流れを汲んでいまして。和月先生から直接ご教示頂いてはいませんが、和月先生のアシスタントをしていた方から教わったので、勝手にその系譜だと思っています(笑)。集中線ってただ引けばいいのではなく、体の動きに合わせて密度を高くしたり、軌道に合わせて抜いたり、背景をブレさせたり、動きを見せるためのものです。読者は「スピーディーな動きだなぁ」「臨場感あるなぁ」と、さーっと見てしまいますが、そういう風に思われたら大成功ですね。

『青エク』のアシスタントで学んだ、場面を引き立てる効果線!