元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2019-09-13

第3回 『ドラゴンボール』の敵はなぜいつも2人組なのか




一度は感じたことはありませんか?
「『ドラゴンボール』って、いつも敵が二人で出てくるな」って。



天津飯&餃子、ベジータ&ナッパ、19号&20号、17号&18号…








サイトウは昔から気になってたのですが、漫画編集者になってしばらくしてから、その理由に気づきました。 実は漫画テクニック的にめちゃ使えて、かつ非常に取り入れやすい理由だったので、新人作家さんも真似してみることをオススメします。



さて、その理由とは何か。


答えはシンプル。

「2人いると、描けることが増える」から、です。

(鳥山先生ご本人に伺ったわけではないので、あくまで僕の推測です。)




たとえば…漫画を描き始めた新人作家さんのよくある悩みに、「キャラのセリフがうまく描けない」があります。セリフがどうも生き生きしてない、でもしゃべらせないと物語が動かないし、展開上は読者に伝えなきゃいけない情報もある。その結果、うまく動いてくれずキャラに不自然に説明セリフをしゃべらせる…といった、パッとしない描写になりがちです。
そうなってしまう原因の一つには、「キャラが必要最低限しかいないと、セリフを描くのが難しくなる」があります。



『ドラゴンボール』に話を戻すと…「ベジータとナッパ」の場合、サイヤ人が地球に襲来する展開なので、「敵」はベジータだけ用意すれば、ストーリーは最低限成立するでしょう。
そこにナッパを追加したことで、敵同士の会話が生まれ、目的を読者にさりげなく伝えて、さらに2人のキャラ性と対比(短気なナッパと冷徹なベジータ)まで見せられるようになりました。もしベジータだけが襲来した場合、独り言が多くなるか、悟空たちにいろんな情報をベラベラ親切にしゃべる不自然なキャラになったのでは。


たとえばここのページとか。






これ、ベジータ一人だった場合は「くっくっく…俺が地球に来たのは、どんな願いでもかなうドラゴンボールを手に入れるためだぜ!」と独り言で親切に説明してくれるめっちゃダサいシーンになっちゃいそう。




ここで重要かつお伝えしたいのは、「敵キャラは多いほうがいい」ということではありません。「ストーリーの展開に最低限必要なキャラ数」と、「キャラの魅力を引き出し、必要な情報を自然に読者に伝えて、ストーリーを面白く読ませるために最適なキャラ数」は必ずしも一緒ではない、ということを知ってほしいのです。キャラのセリフが弾まない時、ネームが描きづらい時には、一つのアプローチとして「ここにキャラを増やすとどうなるだろう?」と、検討してみるのをお勧めします。キャラを増やすことで、不自然な独り言や行動が劇的に減り、描きやすくなる可能性が高いのです。


特に、3人以上いるシチュエーションにすると、会話が単調な「キャッチボール」から、 変化に富んだ「パス回し」となり選択肢が増えます。(もちろん、キャラが多すぎても別の問題が生まれるので、さじ加減に注意。)







『ドラゴンボール』も、意外とキャラが沢山いるシチュエーションが多いんです。




友達と遊ぶ時も、「2人だと会話もたないけど、3人なら話しやすい」という状況には心当たりがあるんじゃないでしょうか。それと一緒と思ってもらえば。

そして何より。複数のキャラを出すと「あるモノ」が生まれるので、キャラクターが劇的に立てやすくなります。




長くなってしまうので、次回の「キャラは無理して一人で立てなくていい」に続きます。





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