元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2019-09-27

第4回 キャラは無理して一人で立てなくていい~「●●●」を使えばキャラは立つ~



前回、「キャラを複数出すことであるモノが生まれる」と書きました。あるものとは?



ズバリ、「関係性」です。




漫画に限らず、エンタメの世界では「魅力的なキャラを作る」ことを至上命題とするものが多いです。特に主人公。少年ジャンプも例外ではありません。が、主人公1人だけを描いて魅力的なキャラに仕立てるのは、すげー難易度高いです。(もちろん、一人で動きまくる圧倒的な主人公を描ける作家さんもいます)


なので、プロの作家さんは「主人公を生み出す」と「他のキャラとどう組み合わせるか」をセットで考える人が多かったです。前回書いたように、ストーリー展開上最低限必要なキャラ数と、ストーリーを「面白く」見せていくキャラ数が一緒とは、必ずしも限らないのです。作品(企画)に最適なキャラ数を模索し、そしてキャラ同士がどんな「関係」なのか&どんな「感情」が向いているのか、「組み合わせ」を一緒に考えるクセをつけることをお勧めします。
これは新人作家さんにはだまされたと思ってトライしてほしい、超・使えるテクニックです。


たとえば「僕のヒーローアカデミア」で見てみましょう。
主人公・デクだけを抜き出すと…




こんな感じ。
…これだけ取り出すと、正直大ヒットする漫画の主人公なのか?と思っちゃうくらいですよね。デク一人だけならば。ここで、デクの周りに、1話目から登場するオールマイト・爆豪を入れて3人組にしてみると…こうなります。



※公式ではなく、あくまでサイトウの解釈したキャラと関係図です。



どうでしょう。冴えないなぁと思っていたデクが、一気に色々なエピソードが生まれそうな、「物語を背負って立てる」主人公に成ったのでは。


・幼馴染だけどスペックに差があるデクと爆豪の関係

・NO.1ヒーロー・オールマイトとデクの「師匠と弟子」的関係

・オールマイトと、彼の大ファンなのに後継者には選ばれなかった爆豪の関係


などなど、キャラ同士の関係性に工夫があって、デク一人だけでは生まれなかった深み・感情を持たせることがイメージしやすくなったんですね。



ちなみに編集者時代、ヒット作がどうキャラを組み合わせてるのかを分析するために、ちまちまと色んな漫画のキャラ関係図を作ってノートに書き溜めていました。




字 汚なっ!



これはその中から、ドラゴンボール1~2巻と、天下一武闘会編のキャラ配置を書き出して比べたものです。なぜこの2つを比べたかというと、DB初代担当編集の鳥嶋さんが、「序盤、悟空のキャラクターが埋もれてしまっていたので、一度周りのキャラを見直した」とよく言ってたから。(もちろん、これも「公式の正解」ではなくサイトウの主観で描いた関係図です。人によって違う関係図や、魅力を見つけ出していいと思います。)





「ドラゴンボール」序盤キャラ相関図サイトウVer.
(を読みやすいよう清書してもらったもの)




「ドラゴンボール」天下一武闘会編キャラ相関図サイトウVer.
(を読みやすいよう清書してもらったもの)




こうやって可視化することで「なるほど、『ドラゴンボール』はクリリンが出てきてからのほうが、悟空が周りのキャラにきちんと「勝ちたい」という感情が向くようになってるな!」と可視化できたり。「名作と呼ばれる漫画は、たいていキャラ同士の関係がしっかり構築されているなぁ」と気づいたり。


「キャラを立てよう!」というと、面白いキャラ、個性的なキャラとしての特徴を作ることだけに気を取られがちですが、「周りにはどんなキャラがいるのか」も含めて考えると、グンと視野が広がるのでお勧めです。アイドルでいう「箱推し」の感覚に近いと思います。グループ全体のバランスに魅力を感じる、みたいな。これは、連載だろうと数十ページの読切だろうと基本は変わりません。


特に、「このキャラはあのキャラを好きなのか嫌いなのか」など、どんな感情が向いているのかをはっきりしておくと、めちゃくちゃ描きやすくなります。(なんとも思っていないキャラ同士を横に並べても、動いてくれないことが多かったです)


また、漫画の内容やジャンル次第で最適なキャラ配置も変わってくるので、考え始めると奥が深くて大変面白いですよ。キャラの話は無限大に広がるので、今回はひとまずこのへんで。






次回予告

次回は、漫画編集者らしく…サイトウがお手本として仕事で使っていた名作読切を「編集者目線で全力で読み解く」という内容です。





© 堀越耕平/集英社