元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2020-04-03

第10回 『クラスにいてほしい』奴こそが主人公になれる



少年漫画誌で、広く読まれる作品を目指すのにまず必要なのは、「主人公が嫌われない」ことだと思っています。


「そんなの当たり前だろ!」と思われるかもしれませんが、描いているうちに好感度ラインを踏み外してしまう新人作家さんの作品はよく見受けられます。 多くは、主人公を立たせよう!という意識が強すぎるあまり、「個性的かもしれないけど読者的に嬉しくはない」特徴をつけてしまい、裏目に出ることが原因です。

次のページをめくってもらうには、最低限嫌われないようにする必要がある。ですが、自分の描いているキャラが読者からどう見えるかを客観視するのは、最初のうちは難しいでしょう。

なので、「作家さんの描いたキャラクターが読む側からどう見えているかを伝える」のは、編集者の大事な仕事のひとつです。


そのうえで…さらに次のページをめくってもらうには、「嫌われない」だけでは足りず、「好きになって」もらわないといけない。キャラクターに「なにかしらの魅力」が無いと読者は追いかけてくれません。


そうすると、編集者は漫画家さんへ「主人公は読者が好きになれるように。もちろん、めちゃくちゃ性格よかったり、いわゆる『いい子ちゃん』にする必要はないんですが、かといって嫌われ過ぎないように…」とリクエストすることになります。好感度が高く、応援したくなるような奴にしてほしい、と。


が、これがなかなかさじ加減の難しい言葉で…伝え方に試行錯誤してきました。

新人作家さんは編集者の言葉を重く受け止めてくれるので、可能なかぎり具体的なイメージを持てるようにしなくてはならないのですが、でも好感度ってあいまいな言葉だよな…作家さんはそもそも好きだからそのキャラを描いているわけで、でも読者の方がよっぽどパッと見だけで好き嫌いを判断しちゃうし、と…


最終的に、「これならイメージしやすいかな」とたどり着いて、手ごたえがあった自分のリクエスト方法は


「読者が、『学校で同じクラスにいてほしい』と思えるキャラを目指してください」


です。もしこいつがクラスメイトだったら学校生活が楽しくなりそう、面白いことが起きそうな予感がする。そう思ってもらえるように描く。もし「クラスにいてもいいけど、いなくてもいい」と思われるレベルのキャラだったら、たぶん主人公としての資格が足りていないと判断して、別のキャラを持ってくるorキャラはそのままに、見せ方を再考するべきでしょう。


みなさんにも今まで好きになった漫画を思い返してほしいのですが、どの作品も主人公・仲間キャラはそのハードルをクリアしていると思います。




『鬼滅の刃』を読むと、「柱」は一筋縄ではいかないキャラが多いのですが、どの柱も「クラスにいてほしいな」と思える絶妙なバランス感覚で描かれているなと個人的には感じます。


もちろん、「フツーな奴を主人公にして描きたい」作品もあると思います。

その場合は、ただのフツーで読者を引っ張り続けるのは難易度高いので、「フツーなりにそいつの良いところ、『このキャラならでは』の行動」を描いて、「クラスにいてほしい」と思えるところまで引き上げる工夫が、経験上欠かせないです。


※昔、先輩に「少年漫画の主人公が人を助けるのは当たり前だから、ただ助けるだけでは「そのキャラならでは」とまでは言えず、差がつかないよ」と言われたのが今でも心に残っていて、できる限り「このキャラならでは」の行動、エピソードがあるように気を付けています。


また、読者を引き付けるには、なんだかんだで「強い」「かっこいい」「面白い」といったポジティブ要素は強力だったなぁと実感しています。数多ある漫画と差をつけるために、「どう強いか」「どうかっこいいのか」を見せるアイディアは必須ですが。


好かれる・嫌われるといった「バランス感覚」の話は、絶対的な正解はなく、描く人によって差があっていいものなので、ひとつの目安・参考として受け取ってください。「うるせー!おれはおれの好きなキャラを描くぜ!!」でももちろんアリです。そういった大小の「差」の積み重ねが、いわゆる『作家性』にもつながるはずなので。







次回予告の代わりに

自分だけでなく、多くの人がこんな時ほど創作物に救われていると思います。いまこの時も創作に向かい合っている方々には敬意を表します。

そしてこのブログが、これから面白い漫画が生まれることに、少しでも貢献できたなら嬉しいです。






© 吾峠呼世晴/集英社