元週刊少年ジャンプ編集者が
漫画家から学んだことを書いていく




2020-5-22

第11回 キャラを印象に残すには、「オーバー」と「ギャップ」を使ってみよう






持ち込みや漫画賞の投稿で、こういうキャラ登場シーンを見ると、いつも「もったいない!」と思ってしまいます。



理由は何か。



キャラが出てくると同時に、そいつの特徴を並べる描き方ですが…
どんなキャラなのかを知ってもらう前に、「こういう趣味あるんです」といった特徴を初手で「情報として」提示しても、あまり伝わらないです。

読者は、情報だけ読んでも「へー、アニメ好きなキャラなんだ」とわざわざ覚えてくれないので、書いてないのと変わりません。 (書いてあるわずかな情報だけで、インパクトあってめちゃくちゃ面白いとかであれば成立するかもしれませんが、かなりのセンスを要します)

趣味嗜好といったキャラを彩る個性は、まずキャラを作品世界で描写(他キャラと絡ませる、キャラが行動せざるを得ないシチュエーションに置く)して、読者にどんな奴かある程度知ってもらってから、だんだんと提示していくのをお勧めします。


そのうえで。もし自分の漫画のキャラに、強調したい個性があるなら、具体的にどう描けばいいのか。
経験上、キャラの個性を読者の印象に残すには

「個性をオーバーに演出するか」
「最初の印象を裏切るギャップとして使うか」

のどちらかを軸にするのが有効です。
もちろん、作品や作家さんによっていろんな方法がありますが、もっとも伝わりやすいのは「オーバー」か「ギャップ」、この2つなのは間違いないと思います。


たとえば最初の例、ジャンプ太郎の「アニメ好き」設定を特に印象付けたい、意味のある個性にしたいのであれば…
・「ものすごく過剰にアニメ好きだと思ってもらえる演出・エピソードを入れる(オーバー)」
・「全然そんな印象ないように思わせて、実はアニメ好きという一面があった(ギャップ)」
と、描き方や情報を出す順序を工夫すると、設定に意味が生まれるし、機能してくれるでしょう。
これはかなり安直な例でしたが、どんな時でも基本は一緒だと思ってもらえれば。


そもそも、「ストーリーやサブキャラは、主人公のいろんな面を引き出すためにこそある」と考えると、ストーリーへの向き合い方も変わってきます。

先ほど「だんだんと提示していく」と書きましたが、作家さんへのアドバイスで「キャラクターは、玉ねぎの皮をむいていくみたいに、ページをめくるにつれ色んな面を見せていってほしい」とよく話します。そのほうが、最初に特徴を全部並べ立てる描き方よりも、読者にキャラを好きになってもらいやすいからです(出オチになりづらいし)。
短編の読切作品でも、最初の数ページからだんだん主人公が膨らんでいくほうが印象に残ります。


連載作品はなおさら、回を追うごとに「まだ読者に見せていない面を見せる・すでに見せた面を違うアプローチで描く」よう、作家さんにお願いしますし、新キャラが増える場合も、キャラ単体で面白いか以上に「すでに出ているキャラクターと絡んだ時に、新たな面を引き出せるか」どうかで、本当に必要か検討していました。






ジャンププラスの看板作品「SPY×FAMILY」も、ゴリゴリの冷徹凄腕スパイがページをめくるにつれ「優しさ」という「ギャップ」を見せていく1話目が見事!

>>『SPY×FAMILY』の1話はこちらから読めます!



いろいろ書きましたが、慣れないうちは、まずはシンプルに「一人のキャラからどう意外性を生み出すか」だけでも徹底してみましょう。それだけで、印象に残る度がグッとアップしてきますよ。
それが読者にとって魅力的に見える「意外性」だったら、モアベターです!


お役に立てば幸い。




© 遠藤達哉/集英社
カット/ワタナベマユミ





お知らせ

この度、ジャンプの漫画学校が開設されることになりました。自分も講師の一人として、このブログで書いてるような話、ブログに書きづらいもっとデイープな話をする予定です。

そもそも、このブログを書いてる理由の一つに、「ジャンプには、歴代のすごい作家さんや漫画編集者の知見がいっぱい溜まっているのに、ごく一部にしか共有されていないのはもったいないから、一度形にしたいな」というのもありまして。
ジャンプの多種多様な漫画編集たちの、十人十色な漫画論を聞ける場ができるのは史上初なので、どんな漫画家さんにも発見があると思います。ご応募お待ちしております。




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